どこまでが現代なのか
作者名:RayFa(レイファ)
それは現代社会なんて、名付けられた学問の退屈な一時間が過ぎた後の昼休みだった。
「現代社会・・・って言うけど、どこからどこまでが現代って言うんだろうね?」
そいつは少し浮いていて、簡単に言えば変わった女子だった。
「そりゃ、今現在進行形で進んでる世界なら、それは現代だろ」
あまりにも訳の分からない質問だったから、適当に返した。
「じゃあ、もし仮に江戸時代の人が江戸時代の歴史を勉強したら、それは現代社会なのかしら?」
「馬鹿みたいな例え話だな・・・」
馬鹿とは何よ、なんてぶつぶつと文句を言っているが、それは無視することにした。
だが、そういう些細な疑問が一度、脳を過ぎると中々消えてくれないもので、ついつい思い付いてしまった疑問が口から零れる。
「けど、もし本当に江戸時代の人が、現代に居るとして、俺たちが過去のことだと思ってる江戸時代の事が現代社会で、俺たちで言う現代社会は・・・未来になるのか?」
「お?食いついたね?」
ああ、これだからめんどくさい事になるんだ、こいつに関わると。
とは言え、疑問に思ってしまったのは事実なのだから、逃れようがない。
「気になったけど、あり得ない話だろ」
だから、こう言って話を終わらせる。
「それはどうかな?」
「過去の時代の人間はこの時代には生きてない、それが当たり前のことだろ」
そう、そんな事はあり得ないのだ。
人間の寿命は精々長生きしても百数年、江戸時代は末期でも19世紀の話だ。
つまり、200年以上生きている人間になる。
そう、だからあり得ない話と、この話はここで終わりになる。
はずだったんだ、隣に座ったソイツが立ち上がるまでは。
「じゃあ、その逆はどう?私が未来人で、皆が習っている現代社会は私にとっては歴史の授業!」
流石に、ここまで来ると呆れるを通り越して、頭が痛くなってくる。
「それこそバカバカしい、お前が未来人?そんなのどうやって証明するんだ」
「え?証明?すればいいの?」
「お前にまともな対話を求めた俺が悪かった、とりあえず座れ、今は昼飯時だ」
後、スカートで立たれると色々見える。
まあ、そんな事はどうでも良くて、もしコイツが本当に未来人だったとして、インチキを見せられたとして、それを未来の技術だと判別する方法がない。
それっぽい物を見せられると、そうなのかもしれないと疑わざるを得ないのが今の俺。
「もし・・・お前が本当に未来人だとして、お前が習っていることは、未来で習った歴史の授業の範囲だって事か?」
「え?わかんない、未来で学校行ってなかったし」
思わず、ずっこけそうになった。
いや、座り込んでいるから、ずっこけることはないんだが、感覚的にそんな感じだった。
「じゃあ、証明のしようがないじゃないか」
「そうでも無いよ?」
堂々と当たり前の様に言うものだから、本当にその自信はどこから来るのか。
「だって、私が未来人である証明は私自身だもの」
「はぁ・・・?」
なんで誇らしげなんだよとか、無い胸を張るもんじゃねえぞとか、いつもなら言えたんだろうか。
その時のソイツはやけに当たり前の様に言うので、反論も何も言えなかった。
「私が現代に居る、それだけで私が未来人であると証明するの」
「待て待て、それはとんでもない暴論だろ」
つまり、コイツは自分の存在がこの時代に居ることが、自分が未来人である証と言い放って見せたのだ。
それはあまりにもとんでもない話過ぎた。
「暴論かもしれないけど、私にとってはそれだけで十分だもの、別に君に未来人であることを認めてほしい、なんて一言も言ってないもん」
確かにそうだった。
いや、それで納得する俺も俺でどうなんだという話なんだが。
「い、いや、じゃあ、俺はそんな衝撃の事実を聞かされてどうしろと言うんだ・・・」
「え?普通に友達で居てくれればいいけど?」
本当にコイツが何を考えてるのか、さっぱりわからない。
「・・・・・・まあ、未来人うんぬんの話は、一旦置いておくとして」
「あ、置いとくんだ」
「そこを茶化すな。それとお前が現代社会に疑問を持つ理由とは全く関係ないように思うんだが?」
コイツが未来から来ていたとしても、現代社会がコイツにとっては歴史の授業であるという疑問を持つ方が、当たり前というか妥当な気がしたのだ。
「ああ、それは・・・・・・私が現代に生きるって事は、そこで学ぶ物全てが過去の話じゃない?」
「まあ、そりゃそうだろう・・・」
「じゃあ、私は何を以て、あの授業を現代社会だと言えば良いのだろうって思ってさ」
何を以て、か。
「そんな物、簡単だろう。現代ってのは、今という時間だ。これから先の未来で歴史と呼ばれる事になる今を作り上げる時間だ。」
「お、おう?」
「現代社会ってのは、現代の文化みたいなもんだろ」
なるほどなー・・・と言って空を見上げたソイツを見て、何を考えているんだろう、なんて思ってしまった。
しばらくして、いい笑顔で「いい時代だね、現代って」と言った。