リセット
作者名:黒音よる
激しい風と矢のような雨が降る肌寒い朝。
開き掛けのカーテンから不快な光が密室に差す
床に座り込んだままの私は特に理由もなく窓を開けた。
容赦なく降り注ぐ雨は私を濡らして床につたい、床に落ちた水がどんどん広がっていく。
今日は何月何日だろうか、今は何時なんだろうか
何をする訳でもなく天井を眺め、何を考えるわけでもなく親指の爪を齧る毎日。
カチカチうるさい時計は思いっきり投げて壊してやった。
友達は画面の中、顔も名前も知らない。
ネット上の関係は現実逃避をするのに最適な逃げ場だから
14歳、夏。
アスファルトに熱が染みる季節
安心出来る場所は理想と虚言に溢れたこのアカウントと自分の部屋だけ
嫌いなのはこれから待ち受ける未来と吐いて捨てた過去を生きる自分
本当に何もしないで1日を過ごした今日も重い瞼が閉じるのと同時に終わりを告げようとしている。
昼夜逆転の生活において、朝は夜、夜は朝なのだ。言わずとも分かるだろう。
なんで生きてるんだっけ〜…私
最後の力を振り絞って空に向かって叫んでやった。
「私の人生クソだ!!!!!!!!こんな世の中クソだ!!!!!
親も学校の先生も全員まとめてクソだ!!!!!!!!死ねーーーー!!!!」
ある程度暴言を叫び続けたらスッキリした。
私の叫び声は雨風の荒音にかき消されたので、窓を閉めたあと力尽きた私は
ベッドまで行く余力なんてなく、ベッドよりも近くにあるソファで寝てやった。
どれくらい眠っていたのだろうか…目を開けると明らかに見覚えのない場所だった。
屋根も壁もなく、そびえ立つビルもない、見えるのは満天の星と広がる芝生
この世に生まれてから14年間。
ずっと都会で生きている私は星空の広がる場所に憧れていた。
プラネタリウムで何度も見た”作り物の星達”とは違う。
見上げた夜空は死にたくなるほど綺麗だった。
何時間経っただろうか、わたしは芝生に寝転がり飽きることなく星空を眺めていた。
未だ夜は明かない。
それからいつまで経っても状況は変わらないので、ここは私の夢の中であることに気付いた。
最後に夢を見たのは2年ほど前のことなのでだいぶ久しぶりだなぁ〜なんて呑気に思いながら私はここがどこなのかも分からないまま再び寝落ちしてやることにした
起きたらきっとじめじめした私の部屋のベッドだと信じゆっくり瞼を閉じた
不意に声がして閉じていた瞼を押し上げてみる
しかし目に入るのは眠りにつく前にも見た見慣れた光景だった
なんだ、何にもないじゃないかと私はもう一度眠りにつこうとした。
その時肩に手が触れて今年一の声量で叫んだ。
「え〜、なになに…本気でびっくりした…」
なに言ってるんだこいつは…あまりにもこっちのセリフすぎる…
というか、初対面でいきなり肩に手を置くのってどうかと思う…怖い…
この人見るからに陽キャだし…近づかない方がいいタイプの人間じゃん…
私はすいませんと一言謝り、その場を退散しようと立ち上がった。
ところで腕を掴まれ元の場所に戻された。いきなり座ったからケツが痛い。
「なんでどこか行こうとしちゃうの〜?おはなししようよおはなし!」
なんなんだこの人…厄介すぎる…
話が通じないと瞬時に諦め私はその場で座り直した。
そしてここからが地獄だった。
「どこから来たの?」
「東京」
「何歳?」
「14歳」
「学校は?」
「行ってない」
「なんで?」
「…」
「どうして〜?なんで?」
「うるさい!!!!!!無関係のくせに人の事情に首突っ込むなよ!!!」
「……人に合わせるのに疲れたから? 大人達の言いなりは懲り懲り?
ヘラヘラしてるクラスメイトにうんざりしたから?」
なんだこの人、適当に言ってるんだよね?
私が常思っていることを目の前の女性は代弁するかのようにスラスラ話し出した。
離婚再婚続きで落ち着かない母親の話、隣の席のKYなビッチの話
なんでこの人は全部知ってる…?
しばらく思考回路がショートして体も口も動かなくなっていた私。
ようやく動くようになった口で拙い言葉を発する
「なんで…?わかる?の?」
「そんなの私があなたであなたが私だからだよ」
嘘だ。そんな夢見たいな話があるわけない。
あ、いや、ここは夢のはず…
「私ね、今ちゃんと生きてたら25歳なんだ〜めちゃくちゃ楽しいよ!
友達いーぱいいるし、ご飯も美味しいし、今やってる深夜アニメまじ面白いし
彼氏はいないけどね^_^」
「ちゃんと生きてたらってどういうこと?私って死んだの?」
「うん!14歳の時にね!!人生つまんない!やり直そう!来世に期待してワンチャンダイブー!とか言って!バカだよね」
「そっかぁ…私死ぬのか。あなたも私だから死ぬのか…それを言いにわざわざタイムスリップして私の夢に出てきたの?嫌味?」
「そうだよ〜時代の垣根を超えてひとっ飛び〜バカな私に忠告。」
「そうか…死ぬのかぁ私。25歳で幸せになれるんだ〜遠いなぁ」
「うん。ていうかもう死んでるんだよね!私!」
「そっか〜死んだのか〜私」
「山手線で飛び降り自殺だよ!最後までゴミみたいなことしてんだよな私って!ほんとゴミ!」
「そうだね〜ゴミだね、私たち」
「「あーあ、次は幸せになれるかな」」