そのVtuberは、時代に名前を刻むのか
作者名:あやみん
未来ミテルは、未来人Vtuberだ。
まるで青い猫型ロボットがいそうな夢のある未来/世界観を背景に持ち、それにまつわるネタで動画投稿や配信活動を行っている。
たとえ生放送中であっても未来に関する質問にはすぐ答えてくれるし、どの話も整合性が取れており、その作り込まれた世界観とミテルの軽快なトークに引き込まれるリスナーは増え続けていた。
ミテルと交流のある、とあるVtuberは言った。
「ミテルさんって、キャラが立ってますよね。未来人も吸血鬼も魚も鳥もスライムも、なんだってVtuber界にはいるのに。全く埋もれてないっていうか、なんというか」
作業中の雑談や情報交換用に作られた、個人的な通話グループでの出来事である。
ミテルは首を傾げる。
「そうかな。まあ、未来人ってちょっと定番な感じがするし、それにしては話題にしてもらってるかな」
「あ~いいな~すごいなあ」
「そうかなぁ。まあ、みんなに夢のある未来をお届けすることに関しては、心血注いでるけどね」
その言葉の通り、ミテルは頻繁に配信や動画投稿をしている。
現に今も、また。
「よっし、出来た!」
また一つ新しい動画を作り上げたと、高らかに宣言したのだ。
「嘘でしょミテルさん……私まだ一割しか進んでないんですけど。あ~編集向いてないなあ」
「いやいや、そんなことないよ。私は編集ソフトが便利なだけだから」
「なに使ってるんですか? 有料?」
「うーん、私が作ったから、無料?」
「嘘でしょ自作!?」
音割れ寸前の声で驚かれる。
「え、ミテルさんそれ売っていいレベルでは? え、システムエンジニアですか?」
子どもみたいに興奮して、早口で聞いてくる相手に、ミテルは生放送の時と同じ調子で答える。
「ほら私、未来人だからさ。簡単にソフトウェアを作れる秘密道具があるんだよ」
「あっ、そっか、未来人ですもんね!」
一応空気だけは読めるらしく、それ以上リアルの追及はされなかった。
◆
完成した動画では、未来で主流の再生可能エネルギーについて取り上げられている。
こういう為になる内容を、楽しく分かりやすく発信することも多いのが未来ミテルのYouTubeチャンネルの特徴だ。
それを見た大きなお友達が、将来の夢は科学者だとか技術者だとか、果ては内閣総理大臣だとか言い出しているのは界隈では有名なネタ話である。
しかし、最近はよく、ミテルの動画がとある科学者のTwitterで宣伝される。
「……あ、ミテルさん、またバズってる」
子ども向け科学に力を入れている科学者だ。テレビに出演したこともあり、今度番組のゲストに呼ばれた時にはミテルの動画を説明に使ってくれるらしい。
つい先日、一緒に作業通話していた相手の、華々しい快進撃。直接的にしろ、間接的にしろ、ミテルの影響で将来の進路が変わる人もいるだろう。
科学者も技術者も夢じゃない。もし総理大臣にまでなってしまったら、この国は一体どうなるのだろう。百年後、政策でタイムマシンやどこにでも行けるドアが作られていたらと思うと笑うしかない。
「はは、ミテルさんすごいなあ」
一体何が、ミテルをそこまで駆り立てるのだろうか。
「……いいや。うん、私もがんばろう!」
自分がこの動画を作り上げたとして、それが何になるのだろう……とか、どうでもよくなってくる。
確実なのは、とにかく動画を完成させないことにはなんともならない。
パソコンの電源をつけ、作業通話のグループを見ると、またミテルがそこにいた。
「こんばんはー、ミテルさん」
「あっ、こんばんは! ねえ、新しい動画なんだけど、ちょっと見てくれない?」
「嘘でしょミテルさん、そんな早く」
間髪入れずに送られて来た動画ファイルを、再生する。
そこに映っていたのは、一面の草原だった。
場面が切り替わり、人気のないビル街が映し出される。どこかのVR空間だろうか。
……いや、リアルすぎる。
暫くすると動画の視点がくるんと変わり、一人の人物が映し出される。
誰もいないと錯覚するような世界を背景に、その人はミテルの声でこう言った。
「これが現状です。人口はゆっくり減って、すっかり停滞してしまって、タイムマシンを作る技術も出来なかった。研究員の私でさえ、過去のネットワークにアクセスするのが精一杯。私は、もっとワクワクする世界が見たかった!」
そこで、ウインクを一つ。
「ということで、これを記録映像として、過去のネットから改変実験を行います。目指せ、タイムマシンのある世界! 昔の人たちが興味を持ってくれて、もっと科学が発展するといいな!」
今度は、通話グループの方からミテルの声が聞こえた。
「あの。……送るファイル間違えた」
「……あの、ミテルさん。今、何年でしたっけ」
「えっと……2019……年?」
「検索しました? 今」
「えっと……秘密にしてね!」
そこは、冗談だよ、ではないらしい。