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大きな箱が届いています

作者:天方 ミツキ

「始め」

義務感と多少の気だるさを孕んだ先生の声とともに意識を目の前の問題用紙に集中させる。

憂鬱だ。この数字と記号の羅列を人生でいつ使うというのだ。

  蝉が喚く、鳴く蝉はオスだったかメスだったか、とにかく叫ぶ、1週間の命のくせに。

「一ヶ月だったかな」

蝉の寿命が1週間じゃないことを誰かが証明してた気がするけどよく覚えてないし、なんなら興味もない。

自分たちが喚き騒ぐと大人は怒るのになぜ蝉は許されるんだと理不尽な思考がよぎる。

「大きな箱が届いています」「大きな箱が職員玄関前に届いています」

蝉の喧騒を遮って鳴り響く放送に室内の静寂が切り裂かれる。

「来たか」

心が疼く、平凡な世界を破壊する非凡の登場に。周りの動揺とは裏腹に冷静に小さく呟く自分。

 僕は時間を操ることが出来る。

大きな箱が届いていますとは校内への不法侵入者を知らせる放送である。こうなることも知っていた。なぜなら時間を操ることが出来るから。

「みんな入口から離れて、僕がみてくる」

なんて的確な指示なんだ。我ながら惚れ惚れする。

あの子は大丈夫だろうか。

室内を見渡してあの子を見つける。

羨望の眼差しとはああいった表情を指すのだろう。上がりそうになる口角、もう少し我慢してくれ。

  ここで扉が開く。これも知っていた。

「ーーーーーー」

手を挙げろだかなんだか言っていた気がする。横から手を叩き、銃を落とす。

「運が悪かったね」

ちょっとキザだったかな、もっといいセリフがあったかも。さて、

「残り5分です、見直しをしっかりするように」

室内は静寂に包まれ、外は蝉が鳴いている。

目の前には自分の名前だけが書いてある白紙の解答用紙。

時計を見ると十時五十五分を指している。

額に汗が滲む。

  僕は時間を操ることが

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