文明開化の音がする
作者:くろかわ由理
夜空の星が瞬く小さないおり。その中には二人の少女が居た。互いに手を重ね、指を絡めてじっと時の流れが変わるのを待った。待ちかねた時間。大きな星が流れ、世界でカチリと音がする。平成との境を超えた瞬間に概念だったものが形を持つ瞬間を感じた時、互いの呼吸が一瞬止まる。ぴんと空気が張りつめたその瞬間、迎えた時代は令和。衣を変えながら少女たちは時代が動いたのを感じた。なんとも言えない感覚。何かがゆっくりと変わるという確信と期待、そして不安で胸をいっぱいにさせられる。
「わたくしたちは新たなる時代をまだ生きられるのですね」
黒髪の少女は従者に向かって呟く。
「えぇ、これからもずっと変わらずに」
「ふふっ、一緒に居ましょうね」
「はい。もちろん」
深く頭を下げた従者の白髪が揺れる。
「衣ひとつ変えるだけで時代を感じるなんて面白いことですね」
「えぇ」
衣を変えるということ一つで実感させられた時代の動き。従者である彼女もまた令和という新しい時代に向けてこしらえられた衣を着ていた。現代のハイヒールを模した高下駄。着物にオリエンタルな要素が加わる彼女たちの世界の衣装のまま夜のいおりから真昼の外へと飛び出す。バーチャルの外へと足を踏み入れると彼女たちとは違う灰色の雑踏がゆっくりと流れていた。カラン、カランと高下駄の軽やかな音が跳ね、少女は踊る。しかし彼女とすれ違っても誰も彼女に見向きもしない。振り返って少女は従者に笑いかけた。
「わたくしたちの文明開化の音はまだここでは聞こえませんね」
その声が少し寂しそうで従者の少女は胸がぎゅっと締め付けられる。なぜならば彼女たちは概念で、そこに居て、そこに居ない。カラン、カランと踊る彼女の下駄の音が聞こえたら、振り返ってみるといい。もしかしたら、踊る黒髪の彼女と後ろに控える白髪の従者が見えるかもしれない。その時初めて文明開化の扉が開く。新しい、時代が始まる文明開化の音が。カラン、カランと鳴っては響く。