top of page

閉じ込められた部屋

作者名:狼狽騒(うろた さわげ)

    ◆


 

「……ここはどこだ?」

 

 俺が発した第一声は、四畳半くらいの見知らぬ空間を見回した結果であった。朝起きて目が覚めたらここ――異様な空間にいた。一面には窓も何も無く壁だけ。唯一あるドアにはノブが無く、どうやって開けるかなんて分からない。

 ――いや、嘘だ。

 本当は薄々気が付いていた。

 冷蔵庫も空調機もトイレすらないこの狭い空間に、一つだけ置いてある物体があった。

 

 それは、ノートパソコンだった。

 

 床に置かれたその電子機器が何の意味を成すのか?

 明白だ。

 この扉を開けるカギだろう。

 寝起きに加えて状況に混乱する頭でもそこまで辿り着いた。もっとも、ノートパソコンにしがみ付くように手に取った速度は、混乱していることを顕著に表していたが。

 

「何だこれ何だこれ何だこれ!?」

 

 エンターキーを必死に連打する。その行動が意味を成すなんて考えられない程のパニック状態であったが、しかしながら功は奏したようだ。

 ピーッ!

無機質な音で少し冷静さを取り戻し、キーを叩く指を止める。

直後、じんわりとパソコンの画面に浮かんでくる。


 

『クイズ!

この部屋から脱出する為には【漢字2文字】を入れろ

 

 7 〇 21

 

 入力……』


 

「……はあ?」

 

 完全に頭が冷めた。

 クイズ、などというふざけた言葉が書いてあることから、今回自分を閉じ込めた相手に悪意を感じたが、それよりも内容に疑問符が浮かんだ。

 キーワードは漢字2文字。

 しかしながら真ん中に書いてある文字は『7 〇 21』。ゼロに見えるが真ん中の記号は「まる」だ。

 単純に分析すれば、ここの〇に入るモノから漢字2文字を導け、ということだろうが、しかしてどのように出せばいいかが悩む。

 ――こう述べるように、既に〇印の中に入るモノが何かは分かっている。

 初めの数字は7。

 次が丸印。

最後に21。

 単純に『7の倍数』なのだ。

 つまり丸印に入るのは『14』である。

 だけど14が〇に入るとしても、そう単純な話だろうか?

漢字2文字ってことは単純に『一四』か『十四』と入れれば――と真っ先に思いついたが、自分をこのように唐突に閉じ込め奴がそう簡単な答えにするだろうか?

 しかし考えてもこれ以上出てこない上に『入力は一回のみ』なんてことは書いていないのでとりあえず入力してみよう。電源関係が見当たらないので、実質、このノートパソコンのバッテリー切れがリミットだろう。どれだけ残っているかは分からないので精神的には来るものがある。

 ということで『十四』と入力して打ち込んでみた。

 

『安易に入れたね。勿論ハズレだよ

 でも最初は合っているね

 ヒントは「間に〇〇〇」だよ

 じっとキーボードでも見て考えて』

 

 妙に馴れ馴れしい口調になったことに異様さを感じながらも、俺の目はヒントに吸い寄せられていた。

 間に〇〇〇。

 今度は3文字だ。

 間に入っているのは『14』でどう分解しても3文字にはならない。

 

「……ん? 待てよ?」

 

 ふと頭の中に閃いた言葉がある。

 7

 14

 21

 これらは7の倍数だ。

 

そしてこれらが――九九だとしたら?

 

『7×1=7』『7×2=14』『7×3=21』。

口に出すと、『しちいちがしち』『しちにじゅうし』『しちさんにじゅういち』

 

間にある『14』は――『しちに』。

 3文字だ。

 

「つまり『間にしちに』ってことか……」

 

 しかしだからなんだというのか――と頭を悩ませる俺の頭に、もう一つの文章が引っ掛かった。

 

『じっとキーボードでも見て考えて』

 

 何を入れるのかを考えろとでも言うのか?

 実際にじっと見ていたが、すぐにあることに気が付いた。

 

「……これ、かな入力とローマ字入力だ!」

 

 キーボードに並列してある文字。

 かな文字で『間にしちに』をそのままローマ字に変換してみる。

 でも、『あいだにしちに』――だと『あ』が『3』になるので『間』は『あいだ』ではなく『ま』と読ませる。

『まにしちに』

 かな文字をローマ字で拾うと次になる。

 

『JIDAI』

 

「つまり答えは――『時代』だ!」

 

 俺は早速『時代』を入力する。

 

 ピー、ガシャ。

 

 音と共に扉が開いた。

 

「やった! これで脱出できる!」

 

 俺は一目散に扉の先へと走り込む。

 その先は――

 

「え……っ?」

 

 同じような四畳半の空間。

 窓もない。

 扉は今通った所の一つのみ。

 

「一体何……が……」

 

 と、そこで唐突に瞼が重くなり、俺の意識はあっという間に闇へと落ちて行ってしまった。


 

    ◆


 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「……ここはどこだ?」

 

 俺が発した第一声は、四畳半くらいの見知らぬ空間を見回した結果であった。朝起きて目が覚めたらここ――異様な空間にいた。一面には窓も何も無く壁だけ。唯一あるドアにはノブが無く、どうやって開けるかなんて分からない。

 ――いや、嘘だ。

 本当は薄々気が付いていた。

 冷蔵庫も空調機もトイレすらないこの狭い空間に、一つだけ置いてある物体があった。


 

 それは、ノートパソコンだった。


 

計1941文字 完

bottom of page