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未来は令和へ

作者名:金曜日

「おはよう。いや、良く生まれてくれたな。と言った方がいいか?なあ、令和さんよ?」

僕があまり話しかけないからか、彼は少し苛立ち気味に僕に向かって話しかける。

「そうですね、平成先輩。僕も生まれることが出来てとても嬉しいですよ。」

と、素直に返すと、それを嬉しく思ったのか、

「ああ、そうかそうか。」

と爽やかな笑顔で返してくれた。

「明治爺さん達には挨拶したか?」

不意に伝えられた言葉に僕はハッとする。忘れていた、というのはあながち間違いではないが、それを平成に隠すように答える。

「いや、まだでしたね。今からいこうと思います。」

「ならちょうどいい。俺も一緒に行くよ。明日で役目が終わるわけだしな。」

そういえばそうだ。彼は、三十年の役目を明日終わらせる。

「ヘマすんなよ?やっと明治爺さんとか昭和兄さんの失敗取り戻せたんだからな。」

と苦笑混じりに話す彼に僕は大きく頷く。

「もちろんですよ。先輩よりも、いい時代にしてやります。」

 二人は古ぼけてはいるが、小綺麗な洋館にたどり着く。

「明治爺さん!明治爺さん!令和が来たぞ!」

と騒がしく音を立てる平成を気にする様子もなく僕に話しかける。

「ふむ。君が令和、か。まあ入りなさい。詳しくは中で話そう。」

「お、お邪魔します…。」

と返すと、緊張しているのが伝わったのか平成に言われる。

「そう身構えることないさ。明治爺さん無愛想だからわかんないと思うけど喜んでると思うよ?」

「そうなんですか……。」

身構えるなと言われても、無理な話ではある。相手は四代上の先輩なのだ。そんな相手に対し、失礼に思われるようなことをする訳にはいかない。

「さて、話をする上で足りないのは二人か。」

そう言い玄関を気にする。

「そういえば、昭和兄さんと大正叔父さんはどこいったの?」

「もうそろそろ来るはずだと思うが。」

と呟く明治の不安を断ち切る音が突然鳴った。

―ガチャガチャッガチャチャ

「あかないんですけどー!」

音と同時に鳴った声に明治が答える。

「今から開けてやるから待っておれ。昭和。」

明治が開けた途端、先程よりもいっそう音が大きくなる。

「やっと開いたー!おっ君が令和くんだねー?平成くんからー話は聞いてるよー。」

「おい昭和。令和が困ってるだろ。その辺にしとけ。」

二人は、漫才でもしてるのかと錯覚するほどの速さで話をし、終わらない。居間に集まると、明治が初めに口を開く。

「さて、まずは平成の方からだな。」

「えっ俺か?先に令和の歓迎した方がいいんじゃないか?」

「そんなことないよー平成くんが頑張ったんだから先にありがとうしないとねー。」

そう昭和が言うと周りも頷くので、僕も頷く。

「先輩。僕もまずは先輩に感謝してからがいいと思います。」

「そうか。じゃあありがたくその好意を受け取るかな。」

平成が好意として受け取ったそれは、今までの失敗を拭ってくれた平成への感謝であり、謝罪であった。令和は平成へ感謝することという点において周りより少なかったため、空気を読み机に置かれた菓子を食べていた。

「平成。本当にありがとう。君が頑張ってくれたから私たちの失敗を拭えたんだ。感謝の気持ちしか湧いてこない。」

明治のはっきりとした声が聞こえた。どうやら話は終わったらしい。

「次は令和くんだねー。令和くんもー平成くんに負けないくらい!頑張ってねー。」

「そうだな。私らが言える立場じゃないが、令和には頑張って欲しいな。」

気づかないうちに、僕の話が始まったようだ。後半しか聞けていなかったため、頷くことしか出来なかったが。

「令和はどんな時代になるだろうか。平成が残した問題も解決されるだろうか。」

「ちょっと明治爺さん。俺が令和に余計なことしたみたいに言うなよ。」

「平成も十分余計な問題のこしただろ。」

大正がそう言うと僕を含めた四人の笑顔の花びらが舞う。この時令和は決心した。この三人や、そのあとの担当に自慢出来るような時代にしようと。

 夜、二人の若い男が話している。

「どうだ。いい時代になりそうか?」

その質問をする平成。令和―僕はその質問に対する回答を決めている。

「いい時代になるんじゃありません。いい時代にするんです。平成よりもいい時代だったって言って貰えるようにします。」

それは、自分でも驚く程にはっきりとした目標を持った声だった。

「そこまで言うのか。じゃあ、俺は楽しみにしてるよ。」

苦笑する平成。二人はひとつの看板の前で止まった。

「俺は左にいかないといけないな。」

「僕は右ですね。それでは先輩。さようなら。」

「ああ。頑張れよ。あとはお前に託した。」

そう言って平成は笑顔で私の肩を叩いて行った。私は大きな声で、それに応えられるように、

「当たり前、です。やってやりますよ!」と返した。月明かりが地球を支配する夜、看板に書かれていたとおりに、僕は進んだ。いつしか、「左は過去、右は未来」そう書かれた看板は、「左は過去、右は令和」に変わっていた。

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