まず、チャーミングな一人称文体に一目惚れしました！少し時代がかった言い回しがとても可愛いですね。

「干支」をテーマとして持ってくる目の付け所も素晴らしいです。ネコが語りかけてくるという構成にしたのは妙案だったと思いますよ。ネコが干支にカウントされていない理由付けもオリジナリティがあって面白いです。

また、描かれる出来事がとてもキュート！ネコによる架空生物追放運動。かわいい。手水舎の龍の像に猫パンチする情景がありありと浮かび、ほっこりします。辰とネコの間にジェネレーションギャップが生じるところもクスッと笑えました。両者ともキャラクターがきちんと立っていて、愛おしい！ 起承転結を限られた字数の中できっちりと構成している点も高く評価したいと思います。

野良猫のちょっとした冒険譚、連作短編で読みたい！ とにかく可愛らしいこの一作を、本山らの賞として選出したいと思います！

　とにかく、“読まされる”文章だったのが印象的。

一行目を読んだだけで、まず「場所」と「人物」がパッと想像できる。それだけで、読者はその物語に引き込まれる。

全体的に、鼻につかない程度の“オシャレさ”を感じる雰囲気をまとった文章で、読んでいてストレスがない。地の文とセリフの塩梅もいい。状況説明をすべて地の文でやらずに、地の文を読み疲れてきた頃にスッとセリフが入ってきてくれる感じ。そして、序盤、中盤ではひたすらカメラマンの役割しか持っていなかったバーのマスターが最後に、物語のヒーローとなっていた老人と一言二言話して、タイトルを回収するのもスマートで良かった。 　ただ、「時代」というテーマが老人のセリフ内でしか扱われておらず、若干テーマへの掘り下げが浅いまま終わってしまったのが大賞や特別賞と差がついてしまった理由かもしれない。その点以外では最初から最後まで隙がなく、短編小説として非常に完成度の高い作品だと思った。